プロ写真家にオススメ!Nikonの新フラッグシップ機「D5」を体感レビュー
今回、2016年3月末に発売されたNikonの新しいフラッグシップ機「D5」を試用する機会に恵まれました。
私自身、D810ユーザーでスタジオ内外でのポートレートがメインなため、偉そうに旗艦機を語るレベルでは全くもって無いのですが、せっかくの機会を頂きましたので、主観だらけの拙いレポートをさせていただければと思います。
夜間に行われたテニスの練習風景にてテストシューティングを行い、別日に「シルホイール」のパフォーマーとダンサーの方を被写体に、数人のNikonユーザーで体験会を行いました。
機材構成は以下のとおりです。
- レンズ: AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED、AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II
- メディア: SONY製XDカード(32GB、リード80MB/s)
- 記録画素数: 最大サイズ(5568 x 3712)
- 記録形式: RAW(L 14bitロスレス圧縮) + JPG(NORMAL)
- ピクチャースタイル: SD
- 添付画像: Lightroom CC ストレート現像(ピクチャースタイル、レンズキャリブレーションのみ適用)
【テスト参加者の面々】
D3ライクな重厚感。重量級のレンズと共に。【外観・ハンドリング】
さすがのフラッグシップ機。ずっしりとした重みは決してネガティブな要素ではなく「道具」としての信頼感をユーザーに伝えてくれます。
D4系ではやや丸みを帯びていたペンタ部の形状が、D3を思わせる形状に変化していることも、無骨なイメージを高めているかもしれません。
とはいえ、やや深めのグリップのおかげか重量の割に持ちやすいと感じました。
大きめレンズとの重量バランスが長けているので、大三元ズーム各種との相性は疑いないでしょう。
次世代を見据えた展開。XQDかCFか。【メモリ】
D5はCF2枚かXQD2枚のデュアルスロット。テスト機はXQDタイプでした。
後者は一般的ではないものの、D4、D4sより採用されてきました。
データ転送速度が高速なので連写時、動画撮影時、PCへの画像取込時にストレスが無いとのこと。
もちろん、USB3.0に対応したUSBポートを持つPC/MACでしか能力は発揮できませんが、最近のOA機器をご利用ならほぼ問題ない点だと思います。(当方の環境では実感できなかった・・)
XQDカードはSDカード同等のサイズで、やや厚みがあります。筐体が金属で端子部分が露出していないので、CFカードのような安心感があります。
現時点で(あるいは将来にわたって)最高の性能を手に入れたい、連写、4K収録、またはD500との2台持ちならXQDタイプは有効な選択です。
一方、旧世代機との互換性やCFカードの資産を活かしたい方はCFカードタイプを選ぶもいいでしょう。
なお、D5はスロットタイプの変更(有料)も出来るようなので、「カード分の初期投資を後回しにする」選択もOKです。
D5発売前に一気に値段が下がりましたので、思い切ってXQDカードを選択する事も有りではないでしょうか。
(D4世代以降ならXQDカードをご利用中の方もいらっしゃるかも知れませんね。)
伝統も革新も、全て操作性向上のため。抜群に使いやすい操作系統【ボタン配置】
D4sから搭載されたサブセレクターは健在で、AF測距点の選択が素早くスムーズに行えます。紛れも無く最高の装備の一つだと感じています。
D500を含む本機世代から、MODEボタンが左肩、ISOボタンが右肩に引っ越しました。当然慣れは必要ですが、片手でISO感度を自在に操りながら撮影出来るのはとても便利。
MODE切替よりISO感度調整の方が頻度が高いカメラマンにとっては、非常に有効なアップデートでは無いでしょうか。
個人的に大きなトピックはボタンのイルミネーター採用です。
高感度撮影を活かせる暗所での操作が、格段に楽になりました。
旧世代ユーザーとしては大変うらやましい部分です。
メカ感薄まるシャッター音。官能性を引換えに使える現場増【連写・シャッターフィール】
フラッグシップ機ならではの「約12コマ/秒」の連写、その事実だけでD5を手に取る理由になる気がします。余裕のバッファでRAW(L)での連写時もバッファフルになることはなく、極めて快適でした。
ただ、D3sの元ユーザーによると、モデルを追うごとにシャッター音がおとなしくなっているとの事。確かに、少しおとなしい「シュコンッ」としたシャッター音で、メカっぽい雰囲気は薄くなりました。
官能性を優先する方には物足りなさを感じるかもしれませんが、D810にも通じるようなシャッターフィールで、非常に好感を持てました。
高画素化による微ブレ低減だけでなく、コンサート会場等のシャッター音が気になる環境では有利になりそうです。
想像以上の体験。新アルゴリズムで当たり写真を量産可【AF】
D4s比130%という広範囲・高密度になったAF測距点。
D500のファインダーを覗いた時のインパクトこそ無いものの、確実に新世代のAF体験を感じます。
これだけの範囲・密度に広がる測距点でも、任意点の選択がとても直感的に、素早く出来るようになりました。本当にサブセレクターの機構は素晴らしいですね。
「シルホイール」は直径2m弱の鉄製リングで、内側から両手両足でリングを保持して体を軸にホイールごと回転するスポーツ。
カメラをAF-Cモードにして、AFロック無効、様々なエリアモードで試します。
望遠で競技者の顔を狙っていると、手前を通るホイールにピントが来ることがありました。
この辺はエリアモードの選択、AFロックの設定だけでなく、今回新たに加わった「横切りへの反応」という設定項目で対応できそうです。
回転するホイールの中、顔とリングを交互にフォーカスするスピードと精度。高速連写中、2カット以内にピントが戻っていました。
純正の70-200現行機を装着していたとはいえ、驚きの体験でした。
なお、普段はポートレートメインのカメラマンばかりの体験会だったため、本格的な評価に至っていないことをご容赦下さい。
【f/2.8, 1/2000秒, ISO2500, 78mm, 日中室内 上:顔ピン 中:ピン抜け 下:顔ピン戻り】
余裕の高感度、安心して使えるAWB、全環境対応カメラ【解像感・画質・感度】
夜間のテニスコートは明るいとはいえ、ボールとラケットを止めるためには高速シャッターが欠かせません。D5に「AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II」を取り付け、感度をグッと上げて選手を追いかけます。
一番のトピックである高感度耐性は十分で、D810比で確実に1段以上は余裕があります。ノイズを抑えながらも塗り絵っぽい訳ではなく、しっかりディテールを残しています。
しかし、ISO12800を超えると随分とノイズが増えてきますので、高感度域は用途に応じて使うのが吉だと思います。
「低感度域でのダイナミックレンジが低い」という評価も、試用環境では全く気になりませんでした。
ただし、切り詰めた露出で撮影し、現像時にシャドウを持ち上げるという作業においては過度な期待は禁物です。
なお、高感度域で2機種とD810を全く同じ設定(露出、レンズ、ピクチャースタイル)で撮影し比較すると、前者の露出がややアンダーになりました(0.3段未満、ヒストグラムにて確認)
僅かながら、センサー、画像処理エンジンの違いが出ているかも知れません。
また、従来機比25%ほど画素数が増えたことで、掲載媒体の幅が広がりました。プリント前提のフォトスタジオや写真館、雑誌カメラマンにも訴求できる点だと思います。
【f/2.8, 1/4000秒, ISO6400, 165mm, 5月19時ごろ】
【f/2.8, 1/1600秒, ISO8000, 200mm, 5月20時ごろ】
フラッグシップに不要?フラッグシップだからこそタッチ操作【液晶】
タッチ操作対応になった背面液晶。すばらしく美しい液晶です。Apple製品のRetinaディスプレイを想像していただければ分かりやすいと思います。「操作性」に影響する物理的アップデートの中で、最もインパクトのある装備だと感じました。
236万ドット(XGA)の高解像度、3.2型と必要十分なサイズの新型タッチ液晶は、一世代前のスマートフォン程度のタッチ精度・スピードを確保しており、タップやフリック(めくる)操作にも対応。
再生時には素早い画像切り替え・拡大縮小で、セレクトやピントチェックが格段に楽になります。
但し、再生画像の反応速度と記録メディアの記録速度は多少比例するようです。XDカードモデル、高速CFを使う場合にはほとんど影響は無いでしょう。
未だスタンドアロンでの無線化は無し。【ネットワーク機能】
D500がスマートフォンやタブレットとの連携を意識した機構になっていたのとは一転、無線ネットワーク機能は潔く排除しており(有線LANポート、USBポートは標準装備)、悪い意味で「フラッグシップ」の域にとどまっています。
年々加速するデジタル時代のスピード感の中、撮影のワークフローに直接的に影響するネットワーク機能は、下位機種ならではの「便利機能」ではなく「必須機能」になっていると言えるのではないでしょうか。
少人数で動かざるを得ない現場が増えている昨今、規模の小さな外ロケにおいてPCでの有線テザー撮影は現実的ではありません。
とはいえ、「データをすぐ確認したい・セレクトしたい」という要望はつきものです。
ワイヤレストランスミッターのWT-5、または新型のWT-6を使えば解決するのですが、定価7万円弱の設定には疑問を感じています。
ライバル機を凌ぐ省エネロングライフ。長時間の現場でも○【バッテリー】
D4系と共用のEN-EL18aバッテリーです。
ライバル機と比べて格段に優れたバッテリーライフが話題になっています。D500とは全く逆の現象になっていますが(電池が異なるので比較は出来ませんが)、プロのカメラマンにとって長時間駆動は疑いなく必須要件。
こういった基本性能が高水準でまとまっている事もフラッグシップたる所以でしょうか。本当に素晴らしいです。
ファームアップで死角無し!動画AFには期待禁物【動画】
スチル専門のテストチーム、せっかくの機会にも本格的にはテストしておらず、動画そのもののチェックは行えませんでした。詳細のレポートは専門家にお任せして、D810比での感想だけでもお伝え出来ればと思います。
発売当初、4KUHD動画収録に対応しながら超短時間での収録しか対応していませんでしたが、ファームウェアのアップデートで、他機種並みの29分59秒までの連続収録に対応しました。
加えて、本体側の電子手ぶれ補正(FHD/HD収録時のみ)も実装することで、機能的に先行していたD500に追いつく事になりました。
もちろん、旧世代機を踏襲したパワー絞りやHDMIでの外部出力など、一歩進んだ撮影を身近にする機能は健在です。
動画撮影中のコントラストAF制御は旧世代機と比べて練られているように感じるものの、ライブビューでのタッチAF等の精度・スピードには辛い物があります。
基本的な収録機能は素晴らしいので、リグやフォローフォーカスを使った場合は、最高の「リトル」ムービーカムになるはずです。
レンズ微調整が使える!多重露光の各モードでクリエイティブも。【その他機能】
Nikonの上位機種は、装着レンズ毎のピント調整が可能なAF微調節機能を持っています。
従来の方法は凄く面倒(手順を書きだすのも面倒)だったのですが、D5はライブビューでのピント合わせ+ボタン操作で微調節と登録が完了するとの事。
定期的に使う機能だけに、非常に重宝しそうです。
また、多重露出モードの多様化(比較明、比較暗の追加)は楽しめる機能でした。ストロボを使った撮影などで、背景と被写体の露出関係を変えずに撮影でき、狙い通りの表現がカメラで完結するのは快感です。
ファームウェアでどうにかなるなら、他機種にも実装して頂きたい機能の一つです。
【f/4, 1/3200秒, ISO100, 62mm, 日中室内 Profoto B1(2灯) 比較明合成】
やはりネットワーク機能が・・【いまいちなところ】
ファームウェアのアップデートで後発のD500に遅れを取っていた機能が実装され、ますます隙がなくなりました。ただ、ネットワーク機能にはいささか不満が残ります。
技術的に不可能なら将来機での実装を、ビジネス上の戦略なら今すぐ見直しと検討をして頂きたい点です。
そしたら買いますNikonさん!
D4以前のユーザーは買い!【総評・現在使ってる機材との比較】
このクラスのユーザーさんにとって、筆者クラスの意見が有用とも思えないのですが・・
一応総評をさせていただきます。
D5とD500は、D800系とは完全に住み分けが可能なので、ユーザーにとっては買い増し対象となりそうです。あるいは、D800系後継機との共存も夢があります。
2014年登場のD4s(D810、D750同世代)からの買替えは悩む所です。画像処理エンジンEXPEED4を搭載してから、主に色作りが改善されました。
従来黄色っぽいと言われていたWBの制御がニュートラルになり、撮って出しのJPEGでも十分成り立っています。基本的にD5も同様の路線ですので、アウトプットを重視する方は次期モデルを視野に入れても良いかもしれません。
もちろん、大幅な物理的アップデートがあるので乗換の満足度は高いと思われます。
一方、D4以前のユーザーさんへは乗り換えをオススメできます。画像処理エンジンは2世代違うEXPEED3、明らかに画が変わります。
D4ならバッテリー、XQDカードも共用なので、導入のハードルは決して高くないのではないでしょうか。
業務の効率化、成果物のクオリティ向上で得られる効果によって、D5への投資分は瞬く間にペイしてしまうでしょう。
(ネットワーク機能が強化されれば買います!ほんとに・・)
今回ご紹介した『Nikon D5』は当サイトでも取り扱っております。
プロ向けの卸価格で販売しておりますので、ぜひご確認下さい。
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